Chim↑Pomが広島市現代美術館ミュージアムスタジオでの個展のため二つの作品《リアル千羽鶴》と《ヒロシマの空をピカッとさせる》の制作を行なう

(2008年10月21日)

“「原子爆弾」と「ピカドン」は、いずれも同じものを指す言葉ながら、天国と地獄ほどの隔たりがある。「原子爆弾」は政治家や知識人たちの言葉だ。人体実験のように科学的なこの言葉は、一方には勝利の象徴、他方には敗北の烙印だった。一方、「ピカドン」は庶民の言葉だ。あの瞬間の「何事か」を感覚のまま光と音で表したこの言葉には、痛みや恐怖、死、衝撃、生き延びようとする身体などの体験が生々しく凝縮されている。だから、「原子爆弾」は翻訳できても、「ピカドン」は翻訳できない。なぜならそれは言葉にならない歴史を背負っているからだ。

広島の空に飛行機雲で「ピカッ」と描く。時間が止まったかのような原爆ドームの上空で、「ピカッ」という文字がまるで平和そのものの青空に吸い込まれて消える。擬態されたフラッシュバック、このヴァーチャルな1コマの世界で、何がリアルに見えるだろうか。僕らはメッセージではなく「刺激」を残したい。芸術は「答え」にはなり得ないが、時代を超えて世界を「刺激」できる。このたった五分ほどのんびりとした映像が残すインパクトは、絶大で、重要だ。

日本は平和だ。喜びも悲しみも、芸術も政治も、貧困や殺人さえ、すべて「平和」のなかだ。「平和」の実感は被曝者の死とともに失われ、僕たちはこの正体不明の「平和」にこれからも依存する。だけど、人類は自らが刻み込んだトラウマに向き合いつづけなければならない。さもなければ「平和」の尊さに気付くことも、それを守ることもできない。”

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