黒澤明《いきものの記録》

(1955年)

概要
当時35歳の三船敏郎が70歳の老人を演じたことが話題となった。音楽の早坂文雄が、ビキニ環礁での水爆実験のニュースに、「こんな時代では、安心して仕事が出来ない」ともらしたことをきっかけに制作された。早坂は、この後結核で死去したので、名コンビだった黒澤と早坂が組んだ最後の作品となった。
それまで黒澤作品において三船と共に主役級を演じてきた志村喬は、加齢のため本作を最後に主役級を退き、以後の黒澤作品では脇役及び悪役に転じていくこととなる。
あらすじ
歯科医の原田は、家庭裁判所の調停委員をしている。彼はある日、変わった事件を担当した。鋳物工場を経営している中島喜一は、核兵器の脅威から逃れるためと称してブラジルに移住を計画し、そのために全財産を投げ打とうとしていた。喜一の家族は、彼を準禁治産者とする申し立てを提出した。喜一の言葉を聞いた原田は心を動かされるが、結局は申し立てを認めるしかなかった。計画を阻まれた喜一は倒れる。夜半に意識を回復した喜一は工場に放火した。精神病院に収容された喜一を原田が見舞いに行くと、喜一は明るい顔をしていた。彼は地球を脱出して別の惑星に来たと思っていたのだった。病室の窓から太陽を見て喜一は、原田に「地球が燃えとる」と叫んだ。

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