アダム・スミス『国富論』

(1776年)

『国富論』の大部分はヒュームやモンテスキュー、そして重農主義者チュルゴーといった思想家によって既に確立された理論の焼き直しと言われるものの、市場とそこでおこなわれる競争の重要性に着目することによって、近代経済学の基礎を確立した名著であることに変わりはない。「見えざる手」という言葉は、この著の第四篇第二章で1回使われているだけにもかかわらず、非常に有名である。この文句の意味は、個人による自分自身の利益の追求が、その意図せざる結果として社会公共の利益をはるかに有効に増進させるというものであった。
労働を富の源泉としたスミスは、労働価値説の基礎を築いた理論家でもあり、労働投入量が価格を左右するという考えはリカードやカール・マルクスに支持された。またスミス以前の低賃金論に反対して、その成員の圧倒的多数が貧しい社会が隆盛で幸福であろうはずはないとして高賃金論を展開した。

コメント