(時時刻刻)「脳死は死」論議再燃 臓器移植法改正、自・公の有志案

(2005年04月14日)

008072005年04月14日朝刊2総合00202300文字「脳死は人の死か」――。8年前の臓器移植法成立時に繰り広げられた議論が再浮上している。自民、公明の有志議員による「臓器移植検討会」のメンバーらが「脳死は一律に人の死」とする案を軸に、改正案の今国会提出を目指しているからだ。しかし、検討会が13日まで5回にわたって開いた関係団体や有識者からのヒアリングでは、脳死を死とすることへの賛否が改めて分かれ、問題の難しさを浮き彫りにした。(権敬淑、小堀龍之)

●賛成派――小児心移植に道
議論のたたき台となっている案は「河野案」とも呼ばれる。父親の河野洋平・衆院議長に肝臓を提供したことがきっかけで、脳死移植の推進を求めている河野太郎衆院議員(自民)の案を基にしているからだ。
議論の最大の焦点は「臓器摘出」に関する部分だ。河野案は、「脳死を一律に人の死とする」考え方を基礎に置く。現在でも心臓死した後ならば家族の承諾で腎臓や角膜が提供できるように、医師が脳死を宣告すれば、本人が拒否の意思を残していない場合は、臓器の提供を、家族の意向で決めることができる。
現行法では、脳死判定と臓器摘出のそれぞれに、本人の書面による同意と家族の承諾が必要。条件が満たされた場合に限り、脳死の人からの臓器摘出が許される。これに対し、河野案では、脳死判定は本人、家族いずれの同意も不要。臓器の摘出は、本人が拒否していなければ、家族の承諾だけでできる。
河野案だと、現行法では意思表示が認められていない15歳未満の子どもからの臓器提供が可能になる。小さな臓器が必要な、小児の心臓移植にも道を開くもので、移植推進を望む日本移植学会や、移植を受けた人や移植待機者でつくる患者団体などは、早くから賛成していた。

●反対派――患者の人権侵害
「汗をかくまだ温かい体を、脳死だから死んでいると言われても納得できない」。脳死状態を経て子どもを失った「全国交通事故遺族の会」のメンバーは、ヒアリングでそう訴えた。
日本弁護士連合会も13日、「脳死患者の人権を侵害する恐れが強い」と、脳死を死とすることに真っ向から反対を表明した。
小児移植に関して、移植側、提供側双方の医師を抱える日本小児科学会は、小児の脳死判定について医学的な結論を出せておらず、河野案への賛否は保留した。現行法下で意思表示可能な年齢を「12歳以上」に引き下げるよう提言する一方、ヒアリングでは、親に虐待された子どもが親の承諾で臓器提供者になるようなことがないよう、小児医療体制を整備することが必要だと訴えた。

◇今国会提出、先行き不明
13日には作家の柳田邦男氏、中島みち氏らの意見も聴いた河野太郎議員はヒアリング終了後、「脳死は人の死かということについて、根本的な違いがあって非常に難しい問題だと再確認した。しかし、個人的には(脳死を人の死とする)原案で行きたい」と話した。
ただ、死生観が絡むだけに与党内でも温度差はある。公明党では法改正の必要性を認める声は多いものの、脳死を人の死とすることに抵抗を感じる議員も少なくない。立正佼成会など宗教界からも自民党の調査会に対し、「脳死は人の死ではない」とする反対の要望が相次いで出ている。
検討会は5月初旬にも案を固めたい考えだが、今国会は今後、郵政民営化法案や介護保険法の改正など、重要法案の審議が目白押しとなる見通しで、実際に改正法案を提出して、審議入りできるか、先行きは不透明だ。

◇ ◇
◆キーワード
〈脳死〉 内臓の働きを管理する脳幹を含め、脳全体の働きが止まり、元に戻らなくなった状態。人工呼吸器をつけている間は心臓は動き続けられるが、いずれ心臓死に至る。通常は心臓死の後、脳死が起きるが、脳死が先に起きた人も死んでいると認めれば、動いている心臓を移植することが可能になる。

■臓器提供の条件をめぐる主な論点・主張
〈現行の法律・制度〉
・本人が書面で意思を残し、家族が承諾した場合に限り、脳死判定や臓器提供ができる
・本人意思が示せるのは15歳以上

◇積極派
・脳死は人の死で、臓器提供は家族の同意だけでも可能。現在の制度では小児の臓器提供ができず、移植を受ける機会が少ない
・書面がなくても、本人意思を尊重して提供できるようにすべきだ

◇反対派・慎重派
・脳死は人の死ではなく、臓器提供は認められない
・特に小児では、脳死を正確に判定するのが難しい
・本人の意思を前提としたうえで、同意できる年齢を引き下げることを提案

■脳死移植をめぐる主な動き
68年 8月 札幌医大の和田寿郎教授が日本初の心臓移植(後に死亡)。殺人容疑で札幌地検に告発されたが不起訴
85年12月 厚生省研究班が脳死判定基準(竹内基準)を公表
88年 1月 日本医師会生命倫理懇談会が脳死を人の死と認める最終報告
89年11月 島根医大で国内初の生体肝移植(後に死亡)
92年 1月 脳死臨調が多数意見で脳死・臓器移植を承認する答申を首相に提出
94年 4月 脳死を人の死とする臓器移植法案が議員立法として衆院に(後に廃案)
96年12月 旧法案とほぼ同じ内容の臓器移植法案が衆院に提出される
97年 6月 臓器提供時に限って脳死判定するとの修正案が参院と衆院の両本会議で賛成多数で可決、成立
10月 臓器移植法施行。臓器を公平に分配する日本臓器移植ネットワークが発足
99年 2月 高知市の病院で法施行後初の脳死判定、心臓、肝臓などを提供
04年 2月 自民党の調査会が「家族の承諾だけで提供できる」などとする法改正案をまとめる。国会提出は見送り

コメント

guiguzi

Very satisfied