生前意思で2親族へ 聖路加病院の脳死腎臓移植

(2001年07月02日)

010572001年07月02日夕刊1社会01900818文字東京都中央区の聖路加国際病院で1日に脳死と判定された60代の男性から腎臓を移植された50代女性と40代男性は、脳死した男性の親族だったことが2日、わかった。提供者の生前の意思によるという。
日本臓器移植ネットワークは1日の記者会見で、この事実を公表していなかった。厚生労働省と事前に協議しており、「あっせんに問題はなかった」としている。
臓器移植の原則は「公平・公正」で、移植ネットに登録されている全国の希望者の中から、血液型の一致や病状の緊急性など医学的基準で選ぶことになっている。「提供された臓器は社会共有の貴重な財産」という考え方からで、医学的条件が同じ場合、登録期間が長い順になる。特定の患者への提供に関して、臓器移植法などに明文化された決まりはない。
森達郎・移植ネット理事は「腎臓は心停止後、本人の希望により親族に移植されることはよくあり、一般論として、脳死の場合も親族に提供しても問題はない」と話している。
厚労省の大沢範恭・臓器移植対策室長は「移植法の基本的理念としてある『提供に関する意思は尊重されなければならない』と『移植の機会は公平に与えられるよう配慮されなければならない』という二つの条項のバランスを事例に応じ、個別に判断することになる」としている。
また、移植の透明性にかかわる事実を伏せた点について、移植ネットは「1日の会見で発表したこと以外は、家族の希望により、一切お話しできない」としている。
◇早急に法的整備を
移植医療に詳しい作家の中島みちさんの話 自分の臓器を親族にあげたいという気持ちは非常によく分かる。しかし脳死移植の場合、匿名性を確保した上で医学的に条件を満たす人へ公平に分配するのが法の基本理念だったはずだ。今回の腎移植のケースでいえば、心停止まで待つという選択肢もあった。最大の問題はこうした事例への対応を法律できっちりと詰めず、放置した点にある。今後早急に法的整備を進める必要がある。