子どもの基準作りに難題 妥当性確認の症例少なく 脳死判定

(1998年10月16日)

015821998年10月16日夕刊科学01301033文字脳死移植で現在の脳死判定の対象から除かれている六歳未満の判定基準づくりで、厚生省研究班(班長、竹内一夫・杏林大名誉教授)が全国から症例を募っている。臓器移植法の運用指針では、十五歳以上でないと臓器提供の意思表示ができず、日本では子どもの脳死移植の道は閉ざされているが、二年後には法律の見直しがある。厚生省は来年三月をめどに基準をつくりたい考えだが、症例が集まりにくいなど課題は多い。
六歳以上に適用される脳死判定基準(竹内基準)は(1)深いこん睡(2)瞳孔の散大と固定(3)脳幹反射の消失(4)平たんな脳波(5)自発呼吸の消失の五項目を二回調べる。間隔は六時間と定めている。
研究班は、すでに小児向けの暫定基準はつくっている。要点は一、二回目の判定の間隔をより長くすること。一―六歳未満は十二時間、一歳未満は二十四時間、生後二十八日以内の新生児は四十八時間の間隔をあける。
これは幼い子の脳が発達途上で、障害に対する抵抗力が強いからといわれている。国内でも、六歳以上の基準で脳死とみられる状態となった子で、自発呼吸が復活(最終的に死亡)した例がある。
ドイツなど外国の基準も、子どもでは二回の判定の間隔を長くしているものが多い。竹内さんも「外国の考え方が暫定基準の基礎にある」と話す。
研究班は十月末を期限に、全国の千を超す病院に症例の報告を求めた。できれば百例以上を集め、暫定基準が妥当かどうかを調べたいという。しかし、症例はそう多くない。現在、ようやく三十例を超えた。
かつて竹内基準を定めたときも、全体が七百十八人であるのに対し、九歳までは三十七人しかいなかった。「脳神経外科学会も協力をお願いした。最後の追い込みに期待している」と竹内さん。
ただ、判定が可能になっても、親が子の脳死を受け入れ、さらに臓器提供に至る道は険しそうだ。
四宮範明・東邦大教授(小児科)は、医学的な判定はできるものの、親は普通の心臓死ですら幼い子の死をすぐに受け入れられないのではないか、と分析する。「必死の心臓マッサージを何時間も続けて亡くなり、ようやく納得する親もいる。心臓が動いていて脳死だ、と言われても混乱する可能性が高い。大人の脳死移植が少しでも進まないと、子どもでの可能性は小さい」とみる。
竹内さんは「子どもに対する親の愛情は外国でも同じ。ただ、幼くして亡くなる子どもの生のあかしを残したいという気持ちもある。それを生かすためにも基準をつくりたい」と話している。

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