スーザン・ヒラー「無名のアーティストたちに捧げる」

(1972年)

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スーザン・ヒラーは1970年にアメリカからロンドンに移り、そこに永住したが、その前は文化人類学の研究をしていた。当時の多くの女性アーティストと同様、ヒラーも、コンセプチュアル・アートは主要に言語ベースのものだとみなし、その言葉を自分ではあまり使わなかった。自分の芸術的系譜は「フルクサス」とミニマリズムの融合だというのが、彼女の説明だった。彼女の仕事の大半は、民衆文化の忘れられた、あるいは顧みられなかった側面の考察だった。そのごく初期の表現の一つが(1972年に始まった「無名のアーティストたちに捧げる」と題したプロジェクトだ。英国各地の海辺の避暑地で収集した300点以上の絵葉書。どれも「荒海」と題されている。さまざまな意味で興味ある問題をはらむこれらの絵葉書を提示して、ヒラーは討論に火をつけようと目論んだ。ひとつの問題がもちあがるごとに、数多くの答えが出てくる。絵葉書は美術作品か、もしそうなら、それらを集めたスーザン・ヒラーの役割はキュレターか、それともアーティストか、最初の質問への答えとしては、文芸理論家スーザン・スチュワートの次の発言が当てはまるかもしれず、ヒラーもこれを収集をもとにした自分の作業との関連で引用している。「コレクションは要素を集めたからといって成立するものではない。むしろ、編成の原理があってはじめて存在しえている」1976年以来、何度か展示を繰り返してきた「無名のアーティストたちに捧げる」は、14の大きな壁面パネルに絵葉書を展示し、さらに関連したチャートや地図を付け加えたインスタレーションとなった。この創作の過程で作家のなかに起こった反応や思いを綴った、何冊かのノートもあった。そこで彼女はこう書いている。「これがなければ私たちは、自分が見ているということを自覚しないままでいたかもしれない。そんな運動を瞬間的にとどめているこれらの絵。だから愛着がわくのだ。」