フランシス・ピカビア「カコジル塩酸の眼」

(1921年)

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ピカビアのサロンには「眼」のみが描かれた大きなカンヴァスが置いてあり、その脇には絵の具の壺がいくつか置かれていた。訪問者は誰でもそれに署名するか、何かを追加するように頼まれたという。そのうちカンヴァスは50あまりの署名、駄洒落、いたずら書き、アフォリズムでいっぱいになった。
これは1921年のサロン・ドートンヌに出品され、案の定スキャンダルをかもし、ある批評家は「公衆便所の壁だ」とも言った。
ピカビアは、芸術の本懐は選ぶことにあるのだから、自分は自分はなににでも署名する権利があるとの根拠をあげ、また「美術品のディーラーや美術の神殿のない所なら、芸術はいたる所にある。教会の外いたる所に神が偏在するように」と答えた。
「たびたび言ってきたように、たしかに私は何者でもなく、カンヴァスに思いをはせるだけの優しさを示してくれた多くの人々と一緒に「カコジル塩酸の眼」に署名した、一介のフランシス・ピカビアという者にすぎない」