成立危うい臓器移植改正法 議員ら、採決に逃げ腰

(2009年05月29日)

004622009年05月29日朝刊政治00401824 四つの臓器移植法改正案をめぐる国会議員の意見集約が難航し、今国会での成立は難しいとの見方が出てきた。自民党内では4案すべてが否決されるのを防ぐため、提出順に一本ずつ採決し、最後に「本命案」を回す苦肉の策が浮上。だが、衆院解散前の「駆け込み採決」には慎重論もある。
(南彰、園田耕司)

05年の郵政総選挙で選ばれた衆院議員には、脳死を原則「人の死」とするA案と、現行法にならって本人の意思を重視するB案の両改正案が06年に国会に提出された後、臓器移植問題を考える時間は十分あった。
だが、07年に脳死の判定条件を厳しくするC案が提出され議論は拡散。与野党の衆院厚生労働委員会の理事らが今年5月、合意形成を目指してD案をまとめたが、国会全体の関心は低調なまま。報道各社の議員アンケートの回答率は2割台にとどまっている。
そもそも改正論議を後押ししたのは、世界保健機関(WHO)が臓器の渡航移植を規制する決議を5月に出す見通しが高まったことだ。現行法は15歳未満の臓器提供を禁じており、国内では子どもの移植はできない。「立法府の不作為が問われる」(自民党の鴨下一郎衆院議員)との危機感が広がった。
ところが、新型インフルエンザへの対応に追われるWHOが決議を来年以降に延期。小沢前代表の辞任による民主党の混乱も重なり、法案提出者らを除いて関心は広がらず、25日に4案提案者を招いた民主党の勉強会の出席議員は20人に満たなかった。
A案の支持者が、D案を「親の判断で子どもを殺す法案」などと批判したことも影を落とす。自民党の村田吉隆・国会対策筆頭副委員長は20日の会見で「静かに議員が態度を決める環境作りが望ましい」とくぎを刺したが、議員の間では「あまりかかわりたくない」との本音も広がる。
医学界、患者団体、宗教団体の意見の隔たりも大きく、自民党幹部は「選挙区に帰れば『なぜ賛成したのか』と聞かれる。そういう法案を選挙前にやるべきでない」。

●提出者にも食い違い
法案の提案者にも足並みの乱れが出始めた。
27日の衆院厚労委で始まった各案の実質審議。「脳死を人の死と定義したら医療現場は混乱しないのか」などの質問に、提案者が答えられなかったり、人によって内容が違ったりする場面が相次いだ。
B案賛成者に名を連ねた自民党議員が「自分は同意した覚えがない」と脱退を申し出る騒動も起きた。提案者の中からさえ「総選挙前にあわただしく結論を出すべきでない」(社民党の阿部知子衆院議員)との声が出始めた。
しかし、自民党の国会対策委では、生体肝移植を受けた河野洋平衆院議長が今期限りで政界を引退することを踏まえ、今国会成立を果たしたいという思いが強い。そこで浮上しているのが、4案を「A→B→C→D」の提出順に一本ずつ採決する方式だ。
子供への臓器移植の道を大きく開くのはA案とD案。自民党国対が本命視するのはD案で、15歳以上は現行通り本人の書面での意思表示を義務づける点がA案と違う。A案が過半数に満たない場合、A案賛成者が最後に採決されるD案に賛成して過半数に届くかも――との期待がある。
だが、折衷案のD案は慎重派にも配慮したためA案賛成者は反発している。仮に最初のA案が可決されれば、残り3本の採決を見送る考え方もあるが、提案者の理解を得られるかは分からない。
衆院厚労委の与野党理事は、来月上旬に衆院本会議で中間報告をしたい考えだ。ほとんどの政党は個人の死生観にかかわるとして自主投票とする方針で、意見集約の糸口は見えてこない。

■臓器移植法改正4案の主な内容と賛同者(敬称略)
◆A案 移植学会が主張(06年3月提出)
原則「脳死は人の死」と法律に定め、本人意思が不明な人からも臓器提供を可能にする
中山太郎、河野太郎(自民)、福島豊(公明)

◆B案 小児科医が支持(06年3月提出)
本人の意思表示を前提に、臓器提供可能な年齢を15歳以上から12歳以上に引き下げ
斉藤鉄夫、石井啓一(公明)

◆C案 「脳死は人の死」に反対(07年12月提出)
脳死判定の厳格化や生体移植のルール化、子どもからの臓器提供を検討する「脳死臨調」の設置
阿部知子(社民)、枝野幸男、金田誠一(民主)

◆D案 A~Cの折衷案(09年5月提出)
15歳以上の臓器提供は現行法通り。15歳未満は家族の代諾と第三者の確認で提供可能にする
鴨下一郎、根本匠(自民)、藤村修(民主)

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