「脳死は人の死」可決 0歳から移植容認 臓器法改正、A案が衆院通過

(2009年06月18日)

004412009年06月18日夕刊1総合00101750衆院は18日午後の本会議で、臓器移植法改正案を採決し、原則「脳死は人の死」とし、臓器提供の拡大をめざすA案を賛成多数で可決した。残りのB、C、D各案は採決されないまま、廃案となった。ただ、参院では、多数を占める民主党内に臓器移植の要件緩和に慎重な議員が多く、独自案提出の動きもある。A案がそのまま成立するかどうかは不透明な情勢だ。

衆院議員は現在、欠員を除き478人。採決は記名投票で行われ、欠席・棄権を除いたA案の投票総数は430(過半数216)、賛成263、反対167だった。共産党は「採決は時期尚早」として本会議には出席するが採決は棄権する方針を決定。自民、民主など他の主要政党は「個人の死生観」にかかわるとして党議拘束をかけずに採決に臨んだ。97年に成立した現行法の改正案が採決されたのは初めて。
本人の意思が不明な場合でも家族が同意すれば臓器提供できるとするA案では、小児を含むすべての年齢で臓器提供が可能となる。移植学会や患者団体も推しており、最も多くの支持を集めているとみられていたが、原則「脳死は人の死」とすることなどに抵抗感も根強く、過半数確保のメドは立っていないとされていた。
朝日新聞が5月に衆参両院の全議員を対象に行ったアンケートでも、7割近くが回答せず、回答者のなかでも「わからない・検討中」が2割超を占めるなど、多くの議員が態度を決めかねている様子が浮き彫りになった。A案が可決された背景には、今国会で改正が実現しなければ、当分、改正の機運が遠のくとの議員心理が働いた可能性もある。
採決は国会提出順に、A、B、C、D各案の順で行われ、いずれかの案が投票総数の過半数の賛成を得た時点で、残りの案は採決されずに廃案になるルールだった。より広範な支持を集めようと、折衷案としてつくられたD案も、採決されないまま廃案となった。

●家族の承諾で可能に
臓器移植法の改正A案は06年、脳死になった人からの臓器提供を増やすことを目指す自民党の中山太郎衆院議員らが提出した。最大の特徴は、脳死を人の死とすることだ。そうすることで、脳死になった時に臓器を提供しようと考えていたかどうかがはっきりしない人からも、家族の承諾で提供できるようにする。
現行法では、本人があらかじめ提供の意思を書面に示していなければ、脳死になったとしても、家族も医療機関も、提供の手続きを進められない。つまり、人が脳死になっても、臓器提供の時以外は死んだことにならないよう整理している。本人の意思が書面という確かな形で残されているかどうかがポイントだ。
現在の制度は、脳死をめぐる様々な立場の人たちが議論を重ねて一致点を見いだし、97年に制定された。それだけ高いハードルを設けてある。A案は、提供を拒む権利を認めるものの、死を巡る基本的な立ち位置を変える。
これまで脳死での臓器提供は年に10件前後だった。本人の意思を確かめる手立てとして用意された意思表示カードが思うように普及せず、臓器提供が大きく増えなかったとされている。
A案が参院でも支持を集めて成立すれば、カードがなくても臓器提供できるようになるので、提供件数が増えると、移植にかかわる医師らはみている。ただ、衆院で「脳死を死とすることに社会的合意がない」といった反対意見が相次いだように、参院でも厳しい議論が予想される。

■現行の臓器移植法と各改正案の違い
(1)脳死の位置づけ
(2)臓器提供の条件
(3)子どもからの臓器提供

【現行法】
(1)本人に臓器提供の意思がある場合のみ「人の死」
(2)本人が書面であらかじめ意思表示し、家族が同意
(3)15歳以上
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【A案】
(1)一律に「人の死」。判定拒否権は認める
(2)本人に拒否の意思がなく、家族が同意
(3)0歳から可能
【B案】
(1)現行法と同じ
(2)現行法と同じ
(3)12歳以上
【C案】
(1)現行法と同じ。脳死の定義を厳格化
(2)現行法と同じ
(3)現行法と同じ
【D案】
(1)現行法と同じ。15歳未満は本人意思を家族が代行
(2)15歳以上は現行法と同じ。15歳未満は、家族の同意、第三者機関の確認
(3)0歳から可能

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